景品はプレステ4とソフト一本だった。

貧乏だったが、プレステ4がずっとほしかった。とれるわきゃないやろうが、なんかとれる気がしてならなかった

100円を入れる。

500円で６回だが500円以内で取れるかもしれないではないか。

貧乏人はこういうところで損をする。

爪が灰皿を引っ掻き

『カチャン』と小さく力のない音を立てるのみで終了した

1000円を注ぎこんだところでいつもの私なら「ああ。分かってたさ」「糞食らえ」と捨て台詞を吐いて諦める

そんな私だがなぜか引けなくなっていた。

それから何度もやっても

爪が灰皿の端っこを擦るくらいのものだった

学習能力が微塵にも無いことをこんなところでまで痛感させられるのか

何をどうしたらこの灰皿が筒から落ちるのか

さっぱり原理が分からない手応えしかなかった

3000円ほど注ぎ込んだだろうか

貧乏人の財布は底をつきかけていた

「絶対これを最後にするわ」と誓った一回

何故かドクドクとアドレナリンが出てる感じがした

頭が少し痛くなって目からは念力がカカかぁっと出た気がした

丁度キャッチャーが降りていく時だったか。

キャッチャーの爪が灰皿やらにかすったかかすらないかの時

筒から灰皿が

「ガキーーーーん」

と弾き飛んだ。灰皿の底から棒で思いっきりつついたかの様な衝撃だった

私の力が働いた瞬間にありえない方向に吹き飛んだ感じ。

すごい音だった

「ギャ！！」

と私は喉に力の入ったような音を出すと

喜びで縦方向に真っ直ぐジャンプした

着地すると

すぐさま猛スピード店員さんを呼びに行った

目は血走っていたと思う

灰皿は頓珍漢な方向に「もう観念！」とばかりにひっくり返っていた

そんなUFOキャッチャー内の光景に店員さんも不可解極まりなかったろう。

しかし目が血走り興奮した女が大喜びしている事態に水を刺せなかったんだろうか、はたまた恐怖だったのか

いそいそとプレステ4を裏手から取り出した。

血走った目でガッツポーズをさせられ

『イエイ、ゲットしました』

といった具合のチェキを撮られ

目出たくそのUFOキャッチャーのガラス面にしばらく飾られていた

帰宅途中は

動悸と腹痛と頭痛と一日中ゲーゲーと体調がすこぶる悪かった

というよくわからん話

10年経ち地元から車でおおよそ1時間の場所にあるそのゲームセンターはもうなくなってしまっていた。

何かを思い出させるためなのか

最近よくその場所を通ることが多い。

2023.09